2024/04/17 00:12


1960〜70年代にかけてアメリカで絶大な影響を与えたホールアースカタログ(以下WECと記載)という伝説のカタログが存在した。



スチュアートブランドという人物が、シアーズやエルエルビーンのカタログを参考に自然で生き抜く方法を道具とともに網羅し、自給自足のヒッピー達の為に売り歩いたと言われるカタログであり、doors general storeにとってのバイブルでもある。



WECに掲載される道具のジャンルはカテゴリ毎に分けられ、そのジャンルは家の建て方や、植物について、出産の方法などなど、驚くほど多岐に渡った。

その網羅的で多岐にわたる WECの道具のほとんどが「書物」であったことから、"あらゆる情報のありかを示す媒体"という意味においてはインターネットの始まりとも言うべき役割を担っていたと言われている。



※現にApple創業者スティーブジョブズが2005年のスタンフォード大学の卒業式にてWECをペーパーバック版Googleと称し、WECの巻末の言葉に使われていた"stay hungry stay foolish"をスピーチで引用しているからまた面白い。



ここからはWECの発行コンセプトに話をスライドさせていくが、その上でバックミンスターフラーという人物は欠かせないので、まずはそこから触れていくことにする。

バックミンスターフラーという人物は、1895年マサチューセッツ州生まれの思想家、発明家であり、WEC著者であるスチュアートブランドはバックミンスターフラーが講演会で提唱していた「DO MORE WITH LESS」という思想がきっかけでWECを作ろうと決心したことを

公言している。



それは"最小の資源で最大の成果を"と言う意味で、もう少し噛み砕くと地球にはエネルギーや資源がたくさんあるけれど、もっと使い方を考えて少ない資源で大きな成果を上げられれば、多くの問題は解決できるのではないか?という考えである。



人類の資源の使い方に異を唱えるカウンターな考え方で、半世紀前ながら今でも十分すぎるくらい通づる考え方だ。この考えがWECの発行コンセプト、軸に繋がっていく。



WECはその副題をacsess to toolsとしてその道具の細かな使い方や入手方法が記載され、WEC に掲載される道具の選出条件は以下の4つと言われている。

(1) 役に立つ道具であること

(2) 自主教育に関係があること

(3) 高品質もしくは低価格であること

(4) 郵送で簡単に手に入ること



これも道具に有益で低価格、つまり"小さなもので最大の成果を"求めた結果の条件であり、"DO MORE WITH LESS"の考えが盛り込まれていることがわかるだろう。



つまり、「DO MORE WITH LESS」とは、自然を顧みない体制に対する反体制的哲学であり、ヒッピーの枠を超えた、コンセプトであることが伺える。



それを裏付ける話として、WECの表紙部分にも触れておく。そもそもホールアースとは直訳すると"全地球"。これは、人類が直面している問題は自分の周りだけでなく国境や宗教、文化関係なしに"地球全体"のものだと呼びかける意味も持ち合わせている。

またWECの表紙には毎度地球の写真が載せられるが、当時WECが発行される時代は我々の住む地球が知識では丸いと分かっていても、当時では実際に確かめることができたのはアポロ計画の宇宙飛行士だけだった。



その為、地球がどの様なものか、WECを通してそれを意識づける為にスチュアートブランドはNASAに宇宙から見た地球の写真を公開する様呼びかけ、WECの表紙となったのである。



昨今も仕組み、枠組みだらけで複雑に絡み合った世の中で自分が何の枠組みの中にいるかすらわからなくなる時代だが、

"ホールアース"という言葉には、当時宇宙からの地球の美しい姿を見ることのなかった人々に、地球が国境も枠組みもなく一続きの生命体であることを伝えたい思いが込められていたのである。



最後に、私たちが死んだ後も美しい地球であるためには、地球の46億年の歴史のほんの一瞬の人類が急速に地球の環境を変えてしまった事実を受け止め、より目先の利益ではなく、長い時間軸を持った視点、ホールアースな視点が必要となるように思う。



地球にとっては、人類のお金の動きや政治のことなどはお構いなし。いつだって気候変動や各地で災害は起こる。WECが謳うように、"DO MORE WITH LESS"小さなことで最大の利益が得られれば、自ずと与える影響も少なくなっていく。



現代、100年後、その先も地球で生きていく人類が与える影響をしっかり考えること。それが100年後も構造が、美しい地球が残っていく為のヒントになり得ると信じている。